我が家のEMPIRE
2007年 12月 29日
*
▼
真っ黒だ。
エムパイアといえば金メッキボディのゴージャスな雰囲気漂うアメリカンなカートリッジを思い浮かべるが、proという黒ボディがあるのを知って4000D/IだかIIだかをエアブラシで黒く塗っただけの物だ。
スタイラスもJICO製で、ヨ様やARISAさんのSPUやごんたさんの4000DIIIGOLDに比べ写真に撮るのも恥ずかしいくらいお粗末このうえない。
なのになぜ無理矢理ネタにするかというと、ごんたさんのブログで氏の「エムパイア愛」を目にし、ほろ苦い記憶が甦ったからだ。
当時、中学生だった私は「雑誌の大人たちが褒めるMC型を使うべきだ」と安物のプリメインアンプしか持っていないのに思いこんだ。
「先ずは音の入り口カートリッジからグレードアップするべきだ」とも、どこかから仕入れた言葉を鵜呑みにした。
お年玉や小遣いを貯め、まとまった額になったので電気店に駆け込み忘れもしないビクターのMC101EとテクニカのAT33を買った。
自転車こいで喜び勇んで帰宅し、プレイヤーにセットしようとしたが持っていたSONYのセミオートプレイヤーに自重の重いMCカートリッジではどうやってもバランスが取れない。
意気消沈する坊主頭の「少年だーだ」
再び自転車にまたがり電気店に引き返し、窮状を店員に訴えた。
カウンターウェイトに釣り用で裏に糊のついたテープ状の鉛を巻けば、とりあえず使えるようになると自得したのはずっと後の事だ。
親に何度も泣きつきコンポを買ってもらったばかり、オーディオ雑誌を数冊読んだだけの少年にそんな知恵があるはずもなく、それを知ってか知らずか今となっては確かめる術も無いが、店員からはそんなアドバイスは無かった。
「坊や、どっちも返品はできないよ。注文して取り寄せたんだからね。コレなら軽いから大丈夫だ、特別にオマケして安くしてあげるよ。」
アタック25の司会者に似た担任教師と同じような太いセルフレームの眼鏡の店員は、ニヤニヤと笑いながらケースの片隅から古ボケた箱に入った在庫品を出してきた。
それこそが他ならぬエムパイアであった。
確か5~6000円だったと思うが中学生にはかなりの出費である、レコードを買おうと残しておいた伊藤博文を泣きたい気持ちになりながら差し出した。
それを持ち帰り、開けてみると安っぽいプレスボディにピカピカ光る金メッキ。
使いたくても使えないAT33は同じ金色でも堂々とした佇まいでいかにも良い音がしそうなのに、これはなんともみすぼらしい。
うらめしげに横目でAT33やMC101Eを見つつ、雑誌を参考にエムパイアをセットした。
とは言え初めてのカートリッジ交換である、それなりにやっぱりドキドキしながら音を出した。
「!」
それまでのSONY付属のカートリッジとは全く違う音がする。
まるでそこに百恵ちゃんが立っているような気がしたし、その声にはどこか甘やかささえ感じる。
他の歌手はどうだろう。
クラシックやジャズなどなんの興味も無い、流行のアイドル歌手のレコードしか持っていなかったが何枚も何枚もとっかえひっかえレコードを貪るように聞いた。
やはり違う。
ちっぽけなカートリッジだけでこんなに音が違うなら、スピーカーやアンプを換えたらどんなに違って聞こえるだろうかと思ったものだ。
その後、同世代の友人達と競うがごとく装置のグレードアップに勤しんだ。
どんどん買い換えていくうち、いつしかエムパイアはどこに仕舞ったかも忘れてしまったし、そのうちオーディオよりも単車や夜遊びに興味が移っていった。
そしてついには都会へと就職することになり、あれほど熱中した装置は実家に打ち捨てられた。
そしてさらに何十年かが過ぎ、ジャズに興味を持った「中年だーだ」はオーディオの世界に舞い戻った。
いつか通った道、同じように歩くうちに再びエムパイアと出会った。
懐かしさとほんの少しの悔しさが滲むその金色のカートリッジ、音を聴いているうちに鼻の奥が「つん」とする。
あの時に感じた独特の音像表現と、濃く甘やかな女性ボーカルの息遣いは健在だった。
値段や容姿ではない、魅力ある世界を持ったカートリッジであると認識できるまでに数十年の時を要した自分の不明を恥じる。
黒く塗ってしまったのはきっとそんなこんなの照れ隠しだろう。
それから数個入手する機会もあり、カートリッジキーパーにエムパイアは欠かせない存在となった。
シュアーTypeIIIに比べて出番は少ないものの、思い出したように聴きたくなるのだ。
今はシェル固定式の3009なので他のカートリッジを聴くのが億劫だ。
もう1本シェル交換式のアームを入手して、エムパイアや他のカートリッジで遊んでみたい。
アナログが大流行の周辺に刺激されてそう思いついただけなのだが、かまうことはない。
遊びたいように遊ぶ、聴きたいように聴く。
南国の離れ小島に打ち捨てられた中年は、そんなノスタルジーにでも浸っていなければ寂しかろう。
それにしても読み返して・・・長い。
エムパイアといえば金メッキボディのゴージャスな雰囲気漂うアメリカンなカートリッジを思い浮かべるが、proという黒ボディがあるのを知って4000D/IだかIIだかをエアブラシで黒く塗っただけの物だ。
スタイラスもJICO製で、ヨ様やARISAさんのSPUやごんたさんの4000DIIIGOLDに比べ写真に撮るのも恥ずかしいくらいお粗末このうえない。
なのになぜ無理矢理ネタにするかというと、ごんたさんのブログで氏の「エムパイア愛」を目にし、ほろ苦い記憶が甦ったからだ。
当時、中学生だった私は「雑誌の大人たちが褒めるMC型を使うべきだ」と安物のプリメインアンプしか持っていないのに思いこんだ。
「先ずは音の入り口カートリッジからグレードアップするべきだ」とも、どこかから仕入れた言葉を鵜呑みにした。
お年玉や小遣いを貯め、まとまった額になったので電気店に駆け込み忘れもしないビクターのMC101EとテクニカのAT33を買った。
自転車こいで喜び勇んで帰宅し、プレイヤーにセットしようとしたが持っていたSONYのセミオートプレイヤーに自重の重いMCカートリッジではどうやってもバランスが取れない。
意気消沈する坊主頭の「少年だーだ」
再び自転車にまたがり電気店に引き返し、窮状を店員に訴えた。
カウンターウェイトに釣り用で裏に糊のついたテープ状の鉛を巻けば、とりあえず使えるようになると自得したのはずっと後の事だ。
親に何度も泣きつきコンポを買ってもらったばかり、オーディオ雑誌を数冊読んだだけの少年にそんな知恵があるはずもなく、それを知ってか知らずか今となっては確かめる術も無いが、店員からはそんなアドバイスは無かった。
「坊や、どっちも返品はできないよ。注文して取り寄せたんだからね。コレなら軽いから大丈夫だ、特別にオマケして安くしてあげるよ。」
アタック25の司会者に似た担任教師と同じような太いセルフレームの眼鏡の店員は、ニヤニヤと笑いながらケースの片隅から古ボケた箱に入った在庫品を出してきた。
それこそが他ならぬエムパイアであった。
確か5~6000円だったと思うが中学生にはかなりの出費である、レコードを買おうと残しておいた伊藤博文を泣きたい気持ちになりながら差し出した。
それを持ち帰り、開けてみると安っぽいプレスボディにピカピカ光る金メッキ。
使いたくても使えないAT33は同じ金色でも堂々とした佇まいでいかにも良い音がしそうなのに、これはなんともみすぼらしい。
うらめしげに横目でAT33やMC101Eを見つつ、雑誌を参考にエムパイアをセットした。
とは言え初めてのカートリッジ交換である、それなりにやっぱりドキドキしながら音を出した。
「!」
それまでのSONY付属のカートリッジとは全く違う音がする。
まるでそこに百恵ちゃんが立っているような気がしたし、その声にはどこか甘やかささえ感じる。
他の歌手はどうだろう。
クラシックやジャズなどなんの興味も無い、流行のアイドル歌手のレコードしか持っていなかったが何枚も何枚もとっかえひっかえレコードを貪るように聞いた。
やはり違う。
ちっぽけなカートリッジだけでこんなに音が違うなら、スピーカーやアンプを換えたらどんなに違って聞こえるだろうかと思ったものだ。
その後、同世代の友人達と競うがごとく装置のグレードアップに勤しんだ。
どんどん買い換えていくうち、いつしかエムパイアはどこに仕舞ったかも忘れてしまったし、そのうちオーディオよりも単車や夜遊びに興味が移っていった。
そしてついには都会へと就職することになり、あれほど熱中した装置は実家に打ち捨てられた。
そしてさらに何十年かが過ぎ、ジャズに興味を持った「中年だーだ」はオーディオの世界に舞い戻った。
いつか通った道、同じように歩くうちに再びエムパイアと出会った。
懐かしさとほんの少しの悔しさが滲むその金色のカートリッジ、音を聴いているうちに鼻の奥が「つん」とする。
あの時に感じた独特の音像表現と、濃く甘やかな女性ボーカルの息遣いは健在だった。
値段や容姿ではない、魅力ある世界を持ったカートリッジであると認識できるまでに数十年の時を要した自分の不明を恥じる。
黒く塗ってしまったのはきっとそんなこんなの照れ隠しだろう。
それから数個入手する機会もあり、カートリッジキーパーにエムパイアは欠かせない存在となった。
シュアーTypeIIIに比べて出番は少ないものの、思い出したように聴きたくなるのだ。
今はシェル固定式の3009なので他のカートリッジを聴くのが億劫だ。
もう1本シェル交換式のアームを入手して、エムパイアや他のカートリッジで遊んでみたい。
アナログが大流行の周辺に刺激されてそう思いついただけなのだが、かまうことはない。
遊びたいように遊ぶ、聴きたいように聴く。
南国の離れ小島に打ち捨てられた中年は、そんなノスタルジーにでも浸っていなければ寂しかろう。
それにしても読み返して・・・長い。
by darda95_215
| 2007-12-29 23:53
| audio
|
Comments(9)
* ▲
なんか、「初恋の味」ってやつ?
すっぱいね~
すっぱいね~
0
Commented
by
johannes30w at 2007-12-30 00:42
FRのカートリッジキーパーが泣かせますな
Commented
by
OT
at 2007-12-30 01:03
x
面白かった。
Commented
by
あ4550
at 2007-12-30 01:23
x
うん。
エエ話しやぁ。。
エエ話しやぁ。。
Commented
by
jbl375jp at 2007-12-30 09:45
Commented
by
IT
at 2007-12-30 12:03
x
実は、タイムマシンだったりして。
私も、坊主頭時代にトリップしてしまいました。
私も、坊主頭時代にトリップしてしまいました。
Commented
by
darda95_215 at 2007-12-30 12:58
かつてのオーディオ少年たちから、どっとレスいただき恐縮です w
Commented
at 2012-07-18 14:30
x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented
by
darda95_215 at 2012-08-06 06:20
ほー!こんな便所の落書きみたいな駄文を印刷物にしてしまう雑誌があるんですね。ネットにこんなものを垂れ流せば無断掲載や転載はたまた晒しあげられて小馬鹿にされることは覚悟のうえですから気にしません。
しかーーーーし!常態化した手元不如意に苦しまされる身、取れるものなら取りましょう!ハワイからだと面倒なので取り分折半ということで代わりに取ってきてください。
街宣車出すくらいの援護射撃はハワイに居てもできます(爆)
しかーーーーし!常態化した手元不如意に苦しまされる身、取れるものなら取りましょう!ハワイからだと面倒なので取り分折半ということで代わりに取ってきてください。
街宣車出すくらいの援護射撃はハワイに居てもできます(爆)